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名古屋地方裁判所 昭和59年(ワ)2400号 判決 1989年7月26日

名古屋市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

吉見秀文

浅井岩根

名古屋市<以下省略>

被告

東海交易株式会社

右代表者代表取締役

Y1

名古屋市<以下省略>

被告

Y1

名古屋市<以下省略>

被告

Y2

名古屋市<以下省略>

被告

Y3

東京都江戸川区<以下省略>

被告

Y4

右五名訴訟代理人弁護士

石川貞行

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金七三九万五五五〇円及びこれに対する昭和五九年八月二一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第二項を除いて、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金一六五九万一一〇〇円及びこれに対する昭和五九年八月二一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する

2  訴訟費用は原告の負担とする

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(1) 原告は、住所地を自宅兼店舗としてテレビゲームセンターを経営するものであり、商品先物取引はもちろん証券取引の経験もなかったものである。

(2) 被告東海交易株式会社(以下「被告会社」という。)は、商品先物取引の受託業務等を目的として昭和三八年七月一五日設立された会社であり、名古屋繊維取引所及び名古屋穀物砂糖取引所の商品取引員である。

原告との取引当時、被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、被告会社の代表取締役社長、被告Y2(以下、「被告Y2」という。)は、被告会社本社第一営業部二課課長代理、被告Y3(以下、「被告Y3」という。)は、被告会社本社第一営業部二課課長、被告Y4(以下、「被告Y4」という。)は被告会社本社第一営業部本店長であった。

2  事案の経緯

(1) 原告は、昭和五八年九月二〇日ころ、被告会社の女性従業員から電話を受け、「非常に利回りのいい投資があります。一枚やってみませんか。」と商品先物取引を勧誘され、「試みに一枚だけやって、成り行きを見てもいい。」という趣旨の応答をした。

(2) 同日まもなくして、被告Y2が来宅し、原告は、先物取引の意味や仕組みについてほとんど説明を受けないまま、綿糸一枚分の委託証拠金五万五〇〇〇円を被告Y2に渡し(別表一の①の建玉、以下、建玉の番号のみ示す。)、名古屋繊維取引所における先物取引を行うことの承諾書に署名押印し、受託契約準則と商品取引委託のしおりを受領した。

(3) そのとき、被告Y2は、相場グラフを示して、「一枚では儲けが少ない。四〇枚やったらもっと儲かりますよ。まだまだ三四〇円くらいまでは値下がりします。九月末までに一八〇万円は絶対儲かります。私が保証します。」「自分は外務員だからできませんが、親戚の者には相当儲けてもらっています。」等と勧誘してきたので、原告は、被告Y2の「絶対に儲かる」という言葉を信じて、綿糸四〇枚分の委託証拠金として金二二〇万円を銀行からおろして被告Y2に渡した(②の建玉)。

(4) 原告は、被告Y3から右と同じように「絶対儲かる。」との勧誘を受けたため、友人から金五五〇万円借金し、同年九月二二日、綿糸一〇〇枚分の金五五〇万円を被告会社に預託した(③の建玉)。

(5) 原告は、同年九月三〇日ころ、被告Y3から、①、②、③の玉が値上がりしてきたので、追証が必要であるということで、追証拠金の請求を受け、資金がなかったため困惑していたところ、右被告は、「両建にすれば追証はいらない。またそうしないと今まで預けた金もなくなってしまう。」と積極的に両建を勧誘した。

そこで、原告は、金七七五万円を実弟から借金し、同年九月三〇日、綿糸一四一枚分の金七七五万五〇〇〇円を被告会社に預託した(④の建玉)。

(6) 原告は、同年一〇月一七日ころ、被告Y3から、「これから値上がりするから売玉を全部仕切って買玉に切り換えたほうがよい。」との勧誘を受け、言われるままにこれに応じた(①、②、③の玉の仕切り、⑤の建玉)。

(7) 原告は、そのころ、被告会社に対し、、①、②、③の玉の仕切りによって生じた利益の返還を要求したが、被告Y4から、「証拠金が足りないから返せない。」との虚偽の説明をされ、その要求を拒否されている。

(8) 原告は、同年一〇月二一日ころ、被告Y4から、④、⑤の玉が値下がりしてきたので、追証が必要であるということで、追証拠金の請求を受け、原告が、「もうすでにそんな資金はない。」と申し述べたところ、被告Y4は、「追証を入れてもらわなければ仕切らざるをえないが、そうすると多額の損がでる。会社で証拠金を立て替えて両建てにしてあげましょう。」と勧誘してきたので、原告は、言われるままにこれに応じた(⑥、⑦の建玉)。

(9) 原告は、同年一一月一日ころ、被告Y4から突然に「立て替えてある証拠金を払ってもらわなければ、全部仕切らざるをえない。二〇枚、二〇枚は両建で残しておいてあげましょう。」と言われ、立て替えた証拠金をいつまでに払えなどという話はそれまでなかったので、原告は驚愕したが、なすすべもなかった(④・⑤―1、⑥・⑦―1の玉の仕切り)。

(10) 原告は、昭和五九年三月三日、定時増証拠金として、金九一〇〇円を被告会社に預託した。

(11) 原告は、昭和五九年三月二七日頃、被告Y4から、「納会だから残玉を仕切ります。」との連絡を受けた(⑤―2、⑦―2の仕切り)。

(12) 被告会社は、昭和五九年四月三日、原告に対し、金一九二万八〇〇〇円を返還した。

3  違法性

別表一の取引一覧表記載の取引(以下、「本件取引」という。)は、以下の点で違法である。

(1) 無差別電話勧誘

被告会社は、専属のテレホン従業員に、お定まりのテレホントークを教え込み、先物取引の適格者、不適格者を問わず、「非常に利回りのいい投資があります。」などと大量、無差別に詐欺的勧誘を行い、少しでも気のありそうな者には、営業担当者が出向いて、さらに詐欺的勧誘を継続するという手段を行っており、原告に対しても右のような手段を用いた。

(2) 投機性等の説明の欠如

被告会社は、原告に対し、テレホン従業員がまず「非常に利回りのいい投資があります。」などと投機的要素の少ない取引であると錯覚するような勧誘を行い、ついで、被告Y2は、儲かることのみを強調し、委託追証金についての説明を全くしなかった。

(3) 新規委託者保護管理協定違反

商品取引員は、新規委託者保護管理協定を締結し、新規委託者を保護するため、新規委託者は、三か月の保護育成期間を設け、その期間中の建玉数は、原則として二〇枚以内にするということを定めていた。

しかし、被告Y2、同Y3、同Y4は、原告に対し、右新規委託者保護の制度を説明して、原告が新規委託者として過大な取引をしないように配慮すべき注意義務に違反し、当初から二〇枚という制限取引量を大幅に超える、四〇枚、一〇〇枚、一四一枚、二八二枚という大量の取引を積極的に勧誘して行わせたものである。

(4) 断定的判断の提供

被告らは、原告に対し、①、②、③、⑤の建玉について、「絶対に儲かる。」等、利益を生ずることが確実であると誤解させるような断定的判断を提供して、勧誘を行った。

(5) 利益保証

被告Y2は、原告に対し、「九月末までに一八〇万円は絶対に儲かります。私が保証します。」と言い、近い将来の確定期限付きの確定的利益を保証して勧誘を行った。

(6) 両建

被告らは、原告に対し、「追証がかかった。」とか「追証がかかりそうだ。」と言って、追証を徴収したり取引を見切らせたりする代わりに、最も有効な手段であるかのように偽って両建を勧め、①、②、③と④、④と⑥及び⑤と⑦の玉がそれぞれ両建になっている。両建は、同時に仕切ったのであれば、両建した分の手数料だけ損をすることになって意味がなく、両建した時点より買玉は高く、売玉は安く仕切れば、委託者が得をすることになるが、納会までの短い期間にそのようにうまく仕切ることは不可能に近く、両建によって委託者が得をすることはほとんどないものであり、両建は、委託者にとって無意味な取引である。

(7) 無意味な反復売買

被告会社は、原告に対し、昭和五八年一〇月一七日、①、②、③の売玉合計一四一枚を仕切るとともに、同月二一日、⑥の売玉一四一枚を建てさせている。

(8) 過当な売買取引の要求

本件では、「両建にしないと今まで預けた金もなくなってしまう。」と言って勧誘した④の建玉及び売玉を全部仕切ってすぐに買玉に切り替えさせた⑤の建玉がこれにあたる。

(9) 益金返還遅延

原告は、昭和五八年一〇月一七日、①、②、③の売玉合計一四一枚を仕切って合計金一七三万円の益金を出し、益金の返還請求をしたにもかかわらず、被告Y4は、「証拠金が足りないから返せない。」と虚偽の説明をして、その返還を拒否した。

(10) 外務員、担当者等の交代

被告会社は、原告と取引したわずか四三日の間に、担当外務員を三人も交代させており、責任回避をしているとしか考えられない。

(11) 融資の斡旋類似の行為

被告Y2、同Y3及び同Y4は、原告が①、②の建玉で自己資金を使い果たし、③の建玉の際の金五五〇万円と④の建玉の際の金七七五万円は借金して調達したということを知っているにもかかわらず、原告に対し、借金をさせて売買取引を継続させた。

(12) 無敷き

被告会社は手数料稼ぎ等を目的として、委託証拠金を立て替えて⑥、⑦の建玉をさせ、原告の不利な時期である昭和五八年一一月一日ころその納付を請求し、その未納を理由に一方的に仕切って、原告に対し、合計金九五〇万〇四〇〇円の膨大な損金と手数料を発生させたものである。

(13) 向かい玉

被告会社は、常に原告と反対のポジションに建玉をしており、利益相反の取引となっている。これは、商品取引の専門家である被告会社が、豊富な経験に基づいて判断し、自己玉に有利な建玉、仕切りを行い、原告を損失に導き、その損失に対応する額の利益を得ようとしていたものである。

4  被告らの責任

(1) 被告Y2、同Y3及び同Y4の責任

右被告ら三名は、違法不当な勧誘行為、違法不当な売買取引によって、原告に対して故意または過失により、後記の損害を発生させたものであるから、民法第七〇九条により不法行為の責任を負う。

(2) 被告会社の責任

被告会社は、被告Y2、同Y3及び同Y4の使用者であり、右被告ら三名が会社の事業である商品先物取引の外務勧誘行為について、原告に対し、不法行為により後記損害を与えたのであるから、被告会社は、右被告ら三名とともに原告の損害を賠償する責任がある。

(3) 被告Y1の責任

被告Y1は、被告会社の代表取締役として、右被告ら三名を選任し監督する地位にあるから、右被告ら三名とともに原告の損害を賠償する責任がある。

5  損害

(1) 物的損害 金一三五九万一一〇〇円

これは、原告が被告会社の預託した証拠金一五五一万九一〇〇円から返還を受けた金一九二万八〇〇〇円を控除した金額である。

(2) 精神的損害 金一五〇万円

原告は、本件取引に引きずり込まれ、人間不信、自責の念、周囲への配慮に苦悶し、弁護士への相談、本訴提起を余儀なくされたものであり、右原告の被った苦痛、損害を慰謝するには、金一五〇万円が相当である。

(3) 弁護士費用 金一五〇万円

本件訴訟に要する弁護士費用は、日本弁護士連合会報酬基準によれば、金一五〇万円を下ることはないと思料される。

6  よって、原告は、被告らに対し、不法行為を理由とする損害賠償請求権に基づき、各自合計金一六五九万一一〇〇円及びこれに対する不法行為の日より後で訴状送達の日の翌日である昭和五九年八月二一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否及び被告らの主張

1(1)  請求の原因1の(1)の事実のうち、原告が、住所地を自宅兼店舗としてテレビゲームセンターを経営するものであることは認め、その余の事実は知らない。

(2)  請求の原因1の(2)の事実は認める。

2(1)  請求の原因2の(1)の事実のうち、昭和五八年九月二〇日ころ、被告会社社員の勧誘に対し、原告が「一枚につき、取引をする。」との趣旨の応答をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(2)  請求の原因2の(2)の事実のうち、同日まもなくして被告Y2が来宅したこと、原告が綿糸一枚分の委託証拠金五万五〇〇〇円を被告Y2に渡したこと、原告が原告主張の承諾書に署名押印したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(3)  請求の原因2の(3)の事実のうち、原告が綿糸四〇枚分の金二二〇万円を被告Y2に渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(4)  請求の原因2の(4)の事実のうち、原告が同年九月二二日、綿糸一〇〇枚分の金五五〇万円を被告会社に預託したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(5)  請求の原因2の(5)の事実のうち、原告は同年九月三〇日ころ被告Y3から追証拠金の請求を受けたこと、原告が同年九月三〇日、一四一枚分の金七七五万五〇〇〇円を被告会社に預託したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(6)  請求の原因2の(6)の事実のうち、原告が同年一〇月一七日ころ、売建玉を全部仕切り、買建玉をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(7)  請求の原因2の(7)の事実は否認する。

(8)  請求の原因2の(8)の事実のうち、原告が同年一〇月二一日ころ、被告Y4から追証拠金の請求を受けたこと、被告Y4は、追証を入れなければ仕切らざるをえないと説明したこと及び⑥、⑦の建玉をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(9)  請求の原因2の(9)の事実は否認する。

(10)  請求の原因2の(10)の事実は認める。

(11)  請求の原因2の(11)の事実は否認する。

(12)  請求の原因2の(12)の事実は認める。

3(1)  請求の原因3の(1)の事実は否認する。

被告会社は、無差別電話勧誘は一切していないし、詐欺的勧誘もしていない。

本件では、昭和五八年九月中旬、被告会社の女子社員が原告に電話し、「綿糸四〇番手の先物取引をしてみないか。一枚五万五〇〇〇円である。」と説明し、それに対し、原告は、「じゃあ、とにかく一遍きてください。」と積極的に面談による説明を求めたので、被告Y2が訪問し、その説明のうえで原告は取引を開始しているのであって、何ら詐欺的勧誘による取引ではない。

(2)  請求の原因3の(2)の事実は否認する。

被告Y2は、原告に対し、投機性については書類も持参して十分説明しており、原告も十分に理解していた。

被告Y2は、原告に対し、昭和五八年九月一九日には、「商品取引委託のしおり」、「お願い」、受託契約準則を交付し、外に商品取引ガイド繊維取引パンフレット、綿糸値動グラフも持参して、それらに基づいて説明している。

(3)  請求の原因3の(3)の事実のうち、原告が、主張のとおりに建玉したことは、認めるが、その余の事実は否認する。

新規委託者保護管理協定は、商品取引員が新規委託者について、その保護育成に重点をおいて受託業務を行うための社内管理に関する協定であり、新規委託者からの建玉を制限するのは原則であるが、総括責任者が精査のうえ、認可した委託者に関しては、この限りではない。

本件の場合、昭和五八年九月二〇日、被告Y2が原告方を訪問して、原告が四〇枚の増玉を申し出た際、被告Y2より被告会社にいる被告Y4に架電し、同人が当時の管理部責任者である訴外Aに伺いを立て、原告の資力、取引の理解度、積極性等を考慮して認可したものである。

(4)  請求原因3の(4)の事実は否認する。

被告会社が顧客に提供するのは、あくまでも相場観であり、断定的判断は提供していない。

(5)  請求の原因3の(5)の事実は否認する。

被告会社は、あくまでも相場観に基づいて、利益のとれる可能性を説明したのにすぎない。

(6)  請求原因3の(6)の事実のうち、原告が、その主張のとおりに両建玉したことは認めるが、その余の事実は否認する。

両建は、相場の危険回避のためにしばしば利用されている戦法であり、またその方法をとることを判断し、指示したのは、原告自身である。

①、②、③と④の両建については、昭和五八年九月三〇日当時の商品取引市況において、押し目(値が下がったところを買っておく)持続方針はくずせない、買い方ペースの相場展開となっており、他方、売玉は値洗い損となっており、当時の相場観から、両建を勧め、また原告の相場観においても両建にふみきったのはやむを得ないところであった。

また、④と⑥及び⑤と⑦の両建については、昭和五八年一九月二一日当時、値下がり傾向にあり追証にかかっていたので、その後の方法について、被告Y4が原告方に説明に行き、原告の選択において両建をしたものである。

(7)  請求の原因3の(7)の事実は否認する。

原告が行った各取引は、そのつど理由があって行ったものであり、無意味とは言えない。また、原告は、取引開始以後、自ら新聞で値動きを追い、値動きを記帳しており、ある程度の相場観をもって、自らの判断により建玉をしていたものである。

(8)  請求の原因3の(8)の事実は否認する。

原告の取引は、すべて原告の判断と指示によるものであり、被告会社社員が過当な要求をしたことはない。

また、原告の取引高は、原告の資力等からすれば、多いとはいえず、過当ということはない。

(9)  請求の原因3の(9)の事実は否認する。

原告は、一度も利益金返還請求をしていない。

仮に、原告の主張する月日にその返還請求があったとしても、当時の建玉の買玉について、その日の値段により値洗し、委託証拠金との見合率を計算すると、証拠金が不足していたので証拠金に振り替えざるを得ず、利益金として返還できる状態ではなかった。

(10)  請求の原因3の(10)の事実のうち、原告担当の外務員、担当者等が交代したことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告会社において、原告との取引を担当したのは、第一営業部二課の課長補佐であった被告Y2、同課長の被告Y3及び第一営業部の総括責任者本店長の被告Y4の三名であり、同一部課内の上下系列の役職の者が必要に応じて原告と接し、担当したものであって、原告にいささかも不便を及ぼしていないどころか、十分に原告との連絡をとり、助言をしてきたものである。

(11)  請求の原因3の(11)の事実は否認する。

被告会社は、原告との取引において、融資斡旋行為もその類似行為もしていない。仮に、本件取引において、原告が第三者から借入れをしたとしても、その資産的裏付の範囲内での一時的な資産ぐりであって、余裕のない投機行為を禁止する融資斡旋行為禁止の趣旨とは関係のないものである。

(12)  請求の原因3の(12)の事実のうち、被告会社が、委託証拠金を立て替えて原告の売買を受託したことは認めるが、その余の事実は否認する。

委託証拠金は、商品取引員が委託者に対して取得する委託契約上の債権を担保とするためのものであるから、商品取引員がそれを徴収することなしに商品市場における売買取引をなしたとしても、委託契約の効力に影響を及ぼすものではない。

本件において、原告が主張する昭和五八年一〇月二一日の二八二枚の建玉については、その建玉に際し、必要な金一五五二万円の証拠金について、原告が「一〇月末まで待ってくれ。金は作ってみせる。」と確約して注文したものである。

(13)  請求の原因3の(13)の事実は否認する。

委託者の買注文は、他の取引員の委託玉、他の取引員の自己玉とともに、商品市場における不特定多数の「買集団」に入り、取引員の売注文は、他の取引員の委託玉、他の取引員の自己玉とともに、商品市場における不特定多数の「売集団」に入り、その結果、両集団の売買数量が一致したときに、各節の約定値段が取引所において成立するのである。向かい玉の場合、原告主張のように、委託者と取引員との間の利益が相反するとは言えない。

4(1)  請求の原因4の(1)の事実は否認する。

(2)  請求の原因4の(2)の事実のうち、被告会社が、被告Y2、同Y3及び被告Y4の使用者であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(2)  請求の原因4の(3)の事実のうち、被告Y1が被告会社の代表取締役であることは認めるが、その余の事実は否認する。

5  請求の原因5のうち、原告が被告会社に預託した証拠金が金一五五一万九一〇〇円であること、被告会社が原告に返還した金員が金一九二万八〇〇〇円であることは認めるが、その余の事実は否認する。

三  抗弁(過失相殺)

仮に、被告らに、原告主張のような違法行為があったとしても、原告には、損害の発生、増大について、以下のような重大な過失があったというべきであり、相当の過失相殺がなされるべきである。

1  原告は、取引を始めるにあたり被告会社から先物取引の投機性につき十分説明を受け、それを明示した書面を交付されており、又、原告自身当初からこれを十分理解していたのに、被告会社社員の利益が生ずる旨の予測のみを安易に信じて取引をしたものである。

2  原告は、右投機性を知りながら巨利を企て、一般的には多額とされる取引に、あえて勝負をかけてきた。

3  原告は、自ら値動きを調査し、相当の動向を予測しつつ取引しているものであり、途中、自主的判断によって取引を終了することにより、損を最小限にくいとめることができたのに、取引中一度も取引の終了を申し出ることはなかった。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて否認する。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証及び証人等目録各記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当事者

1  原告は、住所地を自宅兼店舗としてテレビゲームセンターを経営するものであること、被告会社は、商品先物取引の受託業務を目的として昭和三八年七月一五日設立された会社であり、名古屋繊維取引所及び名古屋穀物砂糖取引所の商品取引員であること、原告との取引当時、被告Y1は被告会社の代表取締役社長、被告Y2は被告会社本社第一営業部二課課長代理、被告Y3は被告会社本社第一営業部二課課長、被告Y4は被告会社本社第一営業部本店長であったことは、当事者間に争いがない。

2  前記当事者間に争いのない事実、成立に争いのない乙第二一ないし第二七号証、被告Y2本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第九号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、昭和二二年ころから古着商を営み、昭和三二年ころから鋳造業を営む有限会社aを経営し、昭和四七年から不動産業を営むようになり、昭和四八年右会社を有限会社aと社名変更し、同社は、昭和五八年から原告住所地においてテレビゲームセンターを営業しており、右有限会社aは、原告の家族を代表とする同族会社であること、原告の妻は、右の隣の場所において喫茶店を経営していること、原告の資産としては不動産を合計すると右会社所有名義のものも含めて約二億円程度であること、原告は、被告会社と取引を開始した当時五八歳であり、今までに先物取引にかかわったことはなく、また商品取引、証券取引の経験も有していなかったこと、以上の事実を認めることができ、右認定事実に反する証拠はない。

二  本件取引の経緯

1  原告は、昭和五八年九月二〇日ころ、被告会社社員の勧誘に対し「一枚につき取引をする。」という趣旨の応答をしたこと、同日まもなくして被告Y2が原告宅を訪問したこと、原告が綿糸一枚分の委託証拠金五万五〇〇〇円を被告Y2に渡したこと、原告が名古屋繊維取引所における先物取引を行うことの承諾書に署名押印したこと、それから原告が綿糸四〇枚分の委託証拠金二二〇万円を被告Y2に渡したこと、原告は、同年九月二二日、綿糸一〇〇枚分の委託証拠金五五〇万円を被告会社に預託したこと、原告が、同年九月三〇日ころ被告Y3から追証拠金の請求を受けたこと、原告が、同年九月三〇日、綿糸一四一枚分の委託証拠金七七五万五〇〇〇円を被告会社に預託したこと、原告が、同年一〇月一七日ころ、今までの売建玉を全部仕切り、買建玉に切り換えたこと、原告が、同年一〇月二一日ころ、被告Y4から追証拠金の請求を受けたこと、被告Y4は、追証を入れなければ仕切らざるをえないという説明をしたこと、原告は⑥、⑦の建玉をしたこと、原告は、昭和五九年三月三日、定時増証拠金として、金九一〇〇円を被告会社に預託したこと、被告会社が、同年四月三日、原告に対し、金一九二万八〇〇〇円を返還したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

2  前記争いのない事実、成立に争いのない甲第一号証、第一三号証、乙第一号証の一、二、第二ないし第五号証、第六号証の一ないし八、第七号証、第一二号証の一ないし七、第一六号証の一ないし五、第二一ないし第二七号証、第三二ないし第三四号証、第四〇号証、第四二号証、被告Y2本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第九号証、証人Bの証言及び被告Y2本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証、証人Bの証言により真正に成立したものと認められる乙第一一号証の一ないし二一、前記乙第四〇号証及び被告Y3本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一四号証の一、二、被告Y4本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一五号証、前記乙四〇号証により真正に成立したものと認められる乙第三〇、三一号証、証人Bの証言、原告本人尋問の結果、被告Y2、同Y3、同Y4各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)  原告は、昭和五八年九月一九日、被告会社の女性従業員から電話で、「非常に利回りのいい投資があります。ひとつやってみませんか。」と商品先物取引の勧誘を受け、「一枚五万五〇〇〇円ならば、試みに一枚だけやって、成り行きを見てもいい。」という趣旨の応答をした。

(2)  同日まもなくして、被告Y2が来宅し、原告は、名古屋繊維取引所における綿糸四〇番手の先物取引であること、一枚(四〇〇〇ポンド)の証拠金が金五万五〇〇〇円であること、半年間の期限の間に綿糸の値が上下することにより利益や損失が発生することなどの説明を受け、半年間どのように推移するか見守ろうというつもりで、現在値が下がっているから売りから始めるようにという被告Y2の勧めに従って一枚売建玉をすることに決め、綿糸一枚分の金五万五〇〇〇円を被告Y2に渡し、それから前記承諾書に署名押印して被告Y2に渡し、受託契約準則、商品取引委託のしおり及び「お願い」と題する書面を受領した。しかしながら、原告は、先物取引の意味や仕組みについてそれ以上詳しい説明を受けず、特に先物取引の危険性についての説明を受けなかった。翌二〇日、被告会社は、原告の委託に従って、前場二節において一枚の売建玉を行った(①の建玉)。

(3)  同年九月二〇日、被告Y2は、原告宅を訪問し、本日前場二節で一枚の売建玉をしたという報告をして預かり証を渡した後、相場の説明を行い、「一枚では儲けが少ない。四〇枚やったらもっと儲かりますよ。まだまだ三四〇円(一ポンド当たり)くらいまでは値下がりします。九月末までに一八〇万円は絶対儲かります。私が保証します。」「自分は外務員だからできませんが、親戚の者には相当儲けてもらっています。」等と熱心に勧誘してきたので、原告は、被告Y2の「絶対に儲かる」という言葉を信じて、綿糸四〇枚分の証拠金として金二二〇万円を銀行からおろして被告Y2に渡した。同日、被告会社は、原告の委託に従って、後場二節において四〇枚の売建玉を行った(②の建玉)。

(4)  同年九月二一日、被告Y2と被告Y3は、原告宅を訪問し、被告Y3は、原告に対し、「今後大きく値が下がる可能性が大きい。今がチャンスで儲かるから、三〇〇枚くらいやってみてはどうか。」と勧誘したので、原告は、その日の夕方、被告Y2と電話で会話し、相場の状況について話をし、重ねて熱心な勧誘を受けた後、被告Y3及び被告Y2の言葉を信じて、一〇〇枚だけ建玉することを決意し、「一〇〇枚だけやってみよう。」と答え、翌二二日、友人から借金した金五五〇万円を、綿糸一〇〇枚分の委託証拠金として被告会社に預託した。同日、被告会社は、原告の委託に従って、前場一節において一〇〇枚の売建玉を行った(③の建玉)。

(5)  その後、原告は、新聞などにより相場の動きを関心を持って見ていて、損になっていることに心配し、被告Y3に電話していたが、被告Y3は、昭和五八年九月三〇日、原告に対し、電話で、値が上昇しているという相場の状況を説明し、「ほおっておけば、今までの証拠金が損をしてしまう。損をしないためには、追証を入れてもらわなければならない。挽回するために、七七五万五〇〇〇円入れて、逆のほうに買建玉をしなさい。」と伝え(原告は、この時に初めて追証という言葉を聞いた。)、追証を出すか、両建処理をするかの二通りの方法についてしか説明せず、両建処理が既に生じた損失を回復するのに最も有効な方法であるかのごとく説明した。原告は、資金がなかったため困惑したが、今までの証拠金を損したくないという一念から、被告Y3の勧めのとおり一任する形で建玉することを決意し、同人にその旨を伝え、金七七五万円を実弟から借金し、同年一〇月七日ころ、綿糸一四一枚分の金七七五万五〇〇〇円を被告会社に預託した。なお、同年九月三〇日、被告会社は、原告の委託に従って、前場二節において一四一枚の買建玉を行い(④の建玉)、①、②及び③の一四一枚の売建玉と両建にした。

(6)  原告は、同年一〇月一七日ころ、被告Y3から、「これから値上がりするから売玉を全部仕切って買玉に切り換えたほうがよい。」という助言、指導を受け、これに従うことに決め、その旨を同人に伝えた。そこで、被告会社は、原告の委託に従って、同日前場一節において、一四一枚の売玉を仕切るとともに一四一枚の買建玉を行った(①、②、③の玉の仕切り、⑤の建玉)。なお、右買建玉の委託証拠金については、①、②及び③の委託証拠金が振り替えられた。

(7)  原告は、そのころ、被告会社に対し、①、②、③の玉の仕切りによって生じた利益金一七三万五六〇〇円の返還を要求したが、被告Y3及び同Y4から、「証拠金が足りないから返せない。」という説明をされ、その要求を拒否された。

(8)  原告は、同年一〇月二一日ころ、被告Y4から、「④、⑤の玉が値下がりしてきて、追証を必要とする状態にある。二八二枚の売建玉をして、両建にすることを勧める。委託証拠金は一五五一万円である。」という趣旨の勧誘を受け、同人も、前示被告Y3と同様、追証、両建処理の説明しかせず、この場合両建処理が最も有効な方法であるかのように説明した。原告が、「もうすでにそんな資金はない。」と述べたところ、被告Y4は、「追証を入れてもらわなけれな仕切らざるをえないが、そうすると多額の損がでる。会社で証拠金を立て替えて両建にしてあげましょう。」と言うので、原告は、被告Y4の勧誘のとおり一任する形で建玉することを決意した。被告会社は、、原告の委託に従って、同日後場一節において、二八二枚の売建玉を行った(⑥、⑦の建玉)

(9)  その後、原告は、委託証拠金の金策をすることができず、同年一一月一日ころ、その旨を被告Y4に伝えたところ、被告Y4から「立て替えてある証拠金を払ってもらわなければ、仕切らざるをえない。証拠金に見合う枚数として、二〇枚、二〇枚は残せるから、両建で残しておいて、その後の様子を見ましょう。」と言われ、原告は、被告Y4の言うとおりに任せた。そこで、被告会社は、同年一一月一日、原告の委託に従って、限月の売玉二〇枚、買玉二〇枚を残して、後場一節において、原月二月の売玉一四一枚、買玉一四一枚を、限月の売玉一二一枚、買玉一二一枚を、それぞれ仕切った(④・⑤―1、⑥・⑦―1の玉の仕切り)。

(10)  原告は、昭和五九年三月三日、定時増証拠金として、九一〇〇円を被告会社に預託した。

(11)  原告は、昭和五九年三月二七日ころ、被告Y4から、「納会だから残玉を仕切ります。」との連絡を受けた。そして、被告会社は、同日前場二節において、原告の売玉二〇枚、買玉二〇枚を、それぞれ仕切った(⑤―2、⑦―2の仕切り)。

(12)  原告が、被告会社に対して、交付した委託証拠金の合計は、金一五五一万九一〇〇円であり、被告会社は、原告に対し、委託証拠金と後記損失を清算して、金一九二万八〇〇〇円を返還した。

(13)  以上の原告の商品先物取引の経過は、別表一の取引一覧表のとおりであり、原告の右取引による収支は結局六七五万〇八〇〇円の損失であり、被告会社に対する手数料が合計金六八四万〇三〇〇円となるから、その取引上の損失の合計は金一三五九万一一〇〇円となる。

以上の事実が認められ、原告本人尋問並びに被告Y2、同Y3及び同Y4各本人尋問の結果のうち、右認定事実に反する部分は、前記各証拠に照らし、採用することができない。

三  違法性

1  先物取引の危険性

成立に争いのない甲第六、七号証、第一七号証、前記乙第一号証の一及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

商品先物取引とは、ある期間(限月)を経過した後に商品を受渡して終了する取引を意味し、このような形で取引が終了する場合もあるが、先物取引の大きな特色は、転売買戻し(反対売買)が自由であること、つまり、期日が経過する前に売買契約を解消する自由があるということであり、その場合には差損益金の授受によって売買は決済され、商品の受渡しはなされない。一般大衆の行う先物取引は、右のうち後者の転売買戻しによる差損益金の授受によって決済することを当然に予定した投機的取引である。

また、商品先物取引は、商品の受渡しが不要なうえに、代金のわずか一〇分の一程度の小額の資金(委託証拠金)で、元金の一〇倍もの大きい取引をすることができるのであり、商品価格のわずかな変動によって投下資金に比して極めて高額の差益金を短期間で得ることができる反面、商品価格のわずかな変動によって逆に投下資金をすべて失ってしまう危険も存在するという点で、極めて投機性の高い取引であるということができる。

そして、その商品価格の変動要因は、世界的規模における社会情勢、政治情勢、経済情勢、気象条件、需要と供給のバランスその他と極めて複雑多岐にわたるのであって、それを予想することは極めて困難なものであり、しかも、建玉及び仕切りのそれぞれについて投下資金(委託証拠金)に比して高率の委託手数料を受託者に対して支払わなければならないのであるから、先物取引によって利益を得ることは非常に難しいものであるということができ、統計上商品先物取引において利益を得る人は三割程度にすぎないものとされている。

2  商品取引所法、商品取引所定款等による規則

前記甲第六号証、第一七号証、乙第一号証の一、第二号証、第三三、三四号証、成立に争いのない甲第二ないし第五号証、第八号証、第一一号証、第一八ないし第二〇号証、第二二号証、第二六号証、第三八号証を総合すれば、前記1で認定したような商品先物取引の特殊性、危険性に鑑み、商品取引所法等において、以下のような規制がなされていることが認められる。

(1)  まず、商品取引所法上では、登録外務員が、顧客から売買取引の委託を受ける場合には、顧客に対して、あらかじめ売買取引の受託の条件その他の事項を記載した書面を交付し、その内容を説明しなければならず(法九一条の二第三項)、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供して勧誘すること、損失の全部若しくは一部を負担することを約し、または利益を保証してその委託を勧誘すること、価格、数量その他の事項について顧客の指示を受けないで委託を受けることをそれぞれ禁止し(法九四条一ないし三号)、受託契約準則に定める場合を除き、顧客の指示を受けないで顧客の計算によるべきものとして売買取引すること、委託証拠金の返還その他委託者に対する債務の履行を不当に遅延させること、もっぱら投機的利益の追及を目的として、受託にかかる売買取引と対当させて、過大な数量の売買取引をすることをそれぞれ禁止する(法九四条四号、商品取引所法施行規則七条の三)ことなどが定められ、商品取引所の定款においても、右の事項を「不当な勧誘等の禁止行為」として規定されている。

(2)  全国の商品取引所が、昭和四八年四月に、行政当局の要請を受けて、商品取引員に対して禁止すべき行為として指示した「商品取引員の受託業務に関する指示事項」において、

ア 新規委託者の開拓を目的として、面識のない不特定多数に対して無差別に電話による勧誘を行うことを禁止し、

イ 短日時の間に頻繁な建て落ちの受託を行い、または既存玉を手仕舞うと同時に明らかに手数料稼ぎを目的とすると思われる新規建玉の受託を行うことを禁止し、

ウ 利益が生じた場合にそれを証拠金の増積みとして新たな取引をするように執拗に勧め、または既に発生した損失を確実に取り戻すことを強調して執拗に取引を勧めることを禁止し、

エ 同一商品、同一限月について、売りまたは買いの新規建玉をした後(または同時)に、対応する売買玉を手仕舞いせずに、委託者に損勘定に対する感覚を誤らせて損害を拡大させるおそれの強い両建玉をするように勧めることを禁止している。

(3)  昭和五三年三月二九日の商品取引員全国大会において成立した「新規委託者保護管理協定」は、新規委託者に対して商品取引に関する知識、理解度及び資力等を勘案し適正に売買取引が行われるように助言し保護するため、一定の保護育成期間(最低三か月)及び受託枚数の管理基準(原則として二〇枚を超えないこと。)を設け、かつ新規委託者に係る特別担当班を設置してその管理、指導下に置くこととして、社内責任体制の明確化とその的確な実施を期したものであり、各商品取引員に対し、右内容の新規委託者保護管理規制を定めてこれを厳格に順守することを求めている。

これを受けて、被告会社においては、次のような内容の新規委託者保護管理規則を作成している。

ア 新規委託者の受託枚数の制限については、新規委託者に係る売買枚数の管理基準を定め、新規委託者の建玉枚数は、原則として二〇枚以内とし、新規委託者から特に二〇枚を超える建玉の要請があった場合においては、その申出が妥当であるか否かについて管理部の責任者が調査し、妥当と認められる範囲内において受託するものと規定している。

イ さらに、管理部においては、外務員の新規委託者に対する奉仕の状況を把握するため、必要に応じて新規委託者と連絡を保ち、新規委託者に係る取引内容を常時把握するとともに、月一回以上これを精査し、これに異常な徴候が認められたときは、委託者及び外務員に対し迅速に適切な助言及び指導を行うものと規定している。

3  取引に関する勧誘、指導の違法性

商品取引所法の右規定にはその違法について罰則規定がなく、右定款、協定、規則等は、商品取引員がそれに違反した場合、商品取引所から厳しい制裁を受けることはあっても、それは商品取引員相互間の内部的取決めであって、いわば自粛措置にすぎないから、右各規定に違反する行為がなされたからといって、委託者との関係において、それが直ちに不法行為となるということはできない。しかし、右各規定は、前示1、2のとおり、商品先物取引が極めて投機性の高い特殊な取引であって、一般大衆がそれによって利益を得ることは難しく、損失を被る危険性が極めて大きいことに基づき定められたものであって、その趣旨、内容は、総じて商品取引の適正、公正の確保のため委託者特に新規委託者が不測の損害を被らないように保護育成していくことにある。したがって、右各規定は、単なる内部的な行為規範として働くにとどまらず、委託者に対する関係においても注意義務の一内容を構成するもの、すなわち、商品取引員は、右各規定の趣旨、内容に沿って顧客が先物取引について正しい認識と理解を持ち、自主的かつ自由な判断をもって取引を委託して、不測の損害を被らないように配慮すべき注意義務を負うものというべきである。そして、右各規定の違反の程度が著しく、商品先物取引上相当性を欠き、社会的に許容される限度を超え、顧客の自主的かつ自由な判断を阻害するような態度で先物取引の勧誘、指導がなされたと認められる場合には、その行為は不法行為を構成し、商品取引員は、その勧誘、指導によって委託された取引により委託者が被った委託手数料、売買損金等の損害について賠償すべき責任が生ずるというべきである。

4  そこで、これを前記二に認定した事実について検討すると、被告会社の従業員らの本件取引の勧誘行為、建玉の枚数及び態様についての指導等には、次のような違法性が認められる。

(1)  勧誘行為について

ア 原告は、先に認定したように、三〇年以上も有限会社を経営しており、その間、鋳造業、不動産業、テレビゲームセンターと営業を変えてきているものであるから、ある程度現物取引について経験、理解力を有しているということができるが、本項1で認定したように、先物取引は、極めて投機性の高い取引であり、しかも、当該商品についての相場の変動要因など先物取引に特有の知識が必要であるから、現物取引についての経験、理解力があるからといって、先物取引についての知識、理解力を有しているということはできない。また、前記認定によると、原告は、昭和二二年から一〇年間ほど古着商を営んでいるが、綿糸の相場の変動要因に関する特別の知識、経験を得たということは認められない。そして、原告は、これまで先物取引にかかわったことはなかったこと、商品取引、証券取引の経験も有していなかったことは、前記認定のとおりであるから、以上によれば、原告は、もとより、「商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項」第二項の取引不適格者には該当しないが、先物取引に関して特別の知識、経験、理解力を有していないということができる。

イ 昭和五八年九月一九日、被告Y2は、原告宅を訪問し、原告に対し、名古屋繊維取引所における綿糸四〇番手の先物取引であること、一枚の証拠金が金五万五〇〇〇円であること、半年間の期限の間に綿糸の値が上下することにより利益や損失が発生することなどを説明し、受託契約準則、商品取引委託のしおり及び「お願い」と題する書面を交付したことは、先に認定したとおりである。しかしながら、前記認定によれば、被告Y2は、原告が、先物取引について特別な知識、経験、理解力を有していない者であるにもかかわらず、先物取引の意味や仕組みについて右認定以上の詳しい説明をなさず、特に先物取引の危険性については全く説明しなかった。そして、翌二〇日、被告Y2は、原告に対し、「四〇枚やったらもっと儲かる。まだまだ三四〇円くらいまで値下がりする。九月末までに一八〇万円は絶対に儲かる。私が保証します。」「自分は外務員だからできないが、親戚の者には相当儲けてもらっている。」などと、短期間に大きな利益を得ることが確実であることを強調し、大きな利益が得られることを保証するような文言を申し渡し、先物取引について門外漢である原告をして、ほぼ確実に利益が得られるとの誤った期待を抱かせ、被告Y2の指導どおり、原告にとって極めて多量である四〇枚の売建玉を行うに至らせている。

ウ 同年九月二一日、原告宅において、被告Y3は、「今後大きく値が下がる可能性が大きい。今がチャンスで儲かるから、三〇〇枚くらいやってみてはどうか。」と勧誘し、原告は、被告Y3の言葉を信じて、友人から金五五〇万円の借金をして一〇〇枚の売建玉を行っていること、また、同年一〇月一七日被告Y3は、「これから値上がりするから売玉を全部仕切って買玉に切り換えたほうがよい。」という指導をなし、原告は、被告Y3の指導どおり、一四一枚の売玉を仕切るとともに一四一枚の買建玉を行っていることは、先に認定したとおりであり、先物取引について特別の知識を有していない原告が、一〇枚、一四一枚という極めて多量の枚数の建玉を被告Y3の指導どおりになしていることを考え合わせると、被告Y3の右勧誘、指導も、断定的判断を提供したものであるということができる。

エ 右イ、ウによれば被告Y2及び被告Y3の勧誘、指導は、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供して勧誘したものであり、商品取引所法及び商品取引所定款に違反するものであるということができる。

(2)  建玉の枚数について

ア 原告は、昭和五八年九月二〇日から昭和五九年三月二七日まで、被告会社に取引委託して建玉、手仕舞いしており、その取引状況は、別表一の取引一覧表のとおりである。その枚数についてみると、まず、取引開始日の昭和五八年九月二〇日に四一枚の売建玉がなされ、その二日後同月二二日に一〇〇枚の売建玉がなされて合計一四一枚の売建玉となり、同月三〇日、さらに一四一枚の買建玉がなされ、売建玉一四一枚、買建玉一四一枚の合計二八二枚の建玉となっており、同年一〇月一七日、売建玉一四一枚を仕切るとともに、買建玉一四一枚がなされ、合計二八二枚の買建玉となり、同月二一日、売建玉二八二枚がなされ、買建玉二八二枚、売建玉二八二枚の合計五六四枚の建玉となっている。その後、同年一一月一日に売建玉二〇枚、買建玉二〇枚を残して、売建玉二六二枚、買建玉二六二枚が手仕舞いされ、翌五九年三月二七日、売建玉二〇枚、買建玉二〇枚が手仕舞いされている。右取引状況によれば、原告の取引は、取引開始後一か月半の間に集中しており、取引開始後わずか一か月で五六四枚の建玉数になっていることがわかる。

そして、前記甲第一三号証によれば、原告の売買枚数と被告会社の売買枚数、商品取引員一社の平均売買枚数及び全業者の売買枚数との比較は、別表二の売買枚数比較一覧表のとおりであることが認められる。右表によれば、原告の売買枚数は、九月二二日及び九月三〇日の段階で、商品取引員一社の平均売買枚数のおよそ二倍であり、一〇月一七日及び同月二一日の段階で、被告会社の売買枚数のそれぞれ一四パーセント及び二四パーセントであり、商品取引員一社の平均売買枚数のおよそ五倍であり、一一月一日の段階においては、被告会社の売買枚数の約七〇パーセント、商品取引員一社の平均売買枚数の一一倍以上、全業者の売買枚数の一八パーセント以上であることが認められる。右事実によれば、原告の被告会社に委託した建玉枚数は、取引通念に照らして、極めて多量のものであるということができる。

イ 新規委託者保護管理協定を受けて、被告会社において、新規委託者保護管理規則を作成し、新規委託者の受託枚数の制限については、新規委託者に係る売買枚数の管理基準を定め、新規委託者の建玉枚数は、原則として二〇枚以内とし、新規委託者から特に二〇枚を超える建玉の要請があった場合においては、その申出が妥当であるか否かについて管理部の責任者が調査し、妥当と認められる範囲内において受託するものと規定していることは、先に認定したとおりである。そして、前記乙第九号証、証人Bの証言及び被告Y4本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証、証人Bの証言、被告Y2及び同Y4各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被告Y2は、昭和五八年九月一九日、初めて原告宅を訪問し、短時間の会話を通じて、不動産が約二億円、一日の売上などから現金約一億円と推測し、資産約三億円、商品取引、証券取引とも経験なしとして、原告の顧客カードを作成したこと、翌二〇日、被告Y2は、原告から四〇枚の取引委託を受けた際、被告会社の許可を受けるために被告Y4に連絡したこと、連絡を受けた被告Y4は、同日、管理部に建玉の許可を申請したところ、管理部責任者Aが顧客カードの記載に依拠して承認し、総括責任者であった常務取締役のCも、資金的には問題がないとして再確認していること、以上の事実が認められ、右事実に反する証拠はない。右事実によれば、被告会社は、九月二〇日の四〇枚の建玉受託については、形式的には、新規委託者保護管理協定、規則に従って処理しているということができるが、原告の資産の把握、特に現金等の流動資産の把握については、被告Y2が、原告の一日の売上げなどから推測した不確かなものであること、原告は、先物取引についての特別な知識、経験はもちろん、商品取引、証券取引の経験も全く有しておらず、右被告らにおいてこのことを十分認識していたこと、四〇枚の建玉をすることは、原告から自発的な要請があったのではなく、被告Y2の熱心な勧誘によるものであることなどからすると、取引開始直後に四〇枚の建玉をすることを許可したことは、実質的には右協定、規則の趣旨に沿わない、社会的相当性を欠いたものといわざるをえない。

また、原告は、その後取引を重ね、取引開始後およそ一か月の間に、最高五六四枚の建玉数を有することになるのであるが、この間、被告会社の担当外務員が、新規委託者保護管理規則に従って、管理部の方に許可を申請したということも、管理部の方で何らかの調査、指導、助言をしたことも認めるに足りる証拠はない。

ウ 右ア、イによれば、被告会社は、原告に対し、新規委託者保護管理協定及び新規委託者保護管理規則の求める管理保護をほとんど行っておらず、その内容、趣旨を著しく逸脱した行為をなしたものということができる。

(3)  建玉の態様について

ア 先の認定した事実により、本件建玉の態様についてみると、昭和五八年九月三〇日に、限月二月の建玉について、売建玉一四一枚、買建玉一四一枚の両建(合計二八二枚)となっており、この両建状態は、翌一〇月一七日に売建玉一四一枚を仕切ることによって一旦解消されているが、同日限月三月の買建玉一四一枚を建て、買建玉は、合計二八二枚となる。そして、その四日後に、限月二月の売建玉一四一枚、限月三月の売建玉一四一枚の合計二八二枚の売建玉がなされ、売建玉二八二枚、買建玉二八二枚の両建(合計五六四枚となっており、その後翌一一月一日、限月三月の売建玉二〇枚、買建玉二〇枚を残して、残りの建玉をすべて仕切り、その結果、売建玉二〇枚、買建玉二〇枚の両建状態になり、その状態は、翌年三月の納会まで続くことになる。

イ 両建は、商品取引相場の変動に関わりなく、建玉のいずれかが利益となる反面、他方がその分だけ損勘定になるものであるから、実質的にはその両建した時点で手仕舞いをしたと同様の結果となり、両建を同時に手仕舞いすれば、両建した時点で手仕舞いするよりも、両建した分の手数料だけ顧客の不利になるということができる。確かに、売建玉と買建玉を個々に、それぞれを良い条件で仕切った場合、結果として利益が発生することがあるが、限月の決まっている建玉について、そのような相場の動きを予想して仕切ることは、極めて困難であるということができる。そして、両建は、委託者にとっては、損勘定の認識を誤るおそれが強く、また反対建玉分の委託手数料を新たに負担しなければならない反面、受託者にとっては、顧客との取引を継続して以後の増玉を期待することができ、手数料収入を確保し得るなどの利点があることから、商品取引員ないしその登録外務員は、手数料取得のために、両建の意味について委託者を誤導して勧誘することにつながりやすく、そのため、前述のように、商品取引所の「商品取引員の受託業務に関する指示事項」において禁止された行為として列記されている。

ウ 先に認定したように、昭和五八年九月三〇日に被告Y3が、同年一〇月二一日に被告Y4が、それぞれ原告に対し、損失が発生したとして、両建を勧め、原告をして、売建玉、買建玉同数の両建状態にさせ、しかも、一〇月二一日の⑥、⑦の売建玉によって両建となった④と⑥、⑤と⑦の各建玉は、結局同時に仕切る結果となるに至っている。被告Y3及び被告Y4は、顧客から委託を受けている外務員としては、損失が生じたときは、早めに手仕舞いをさせて損害の拡大を防止する方向へと指導するか、少なくとも両建処理の意味や得失、その危険性について正確な説明を与えて原告にその趣旨を理解させたうえで、その自由な判断に任せるべきであったのに、これを怠り、損失の報告を受け、何としても損を取り戻したいと考えている原告に対し、先に認定したように、欠損を生じた建玉の処理について、追証を出すか、両建処理をするかの二通りの方法についてしか説明をせず、両建処理があたかも既に生じた損失を回復するのに一番有効な方法であるかのごとく説明して、両建を積極的に勧誘し、しかも、被告Y4においては、もはや資金がないという原告に対し、委託証拠金を立て替えまでしており、何としても損を回復したいという原告をして、被告Y3及び被告Y4の言うなりに、かつ具体的な建玉の内容、枚数についても同人らに一任する形で、両建処理の委託をさせるに至ったものであり、さらに、被告Y4においては、売建玉二八二枚、買建玉二八二枚という膨大な建玉が両建状態になっている原告に対し、立て替えてある証拠金の未納付が確定したという理由で簡単に仕切り、原告に膨大な損害を発生させている。以上の事実によれば、被告Y3及び被告Y4の行為は、商品取引所の指示事項の内容、趣旨を著しく逸脱した行為ということができる。

5  原告の違法性に関する主張のうち、無敷き及び向かい玉については、次に判示するとおりであり、原告が指摘するその余の主張は、独立して違法性を基礎づける程度のものではない。

(1)  無敷きについて

ア 原告は、請求原因3の(12)において、被告会社は、委託証拠金を立て替えて⑥、⑦の建玉をさせ、原告にとって不利な時期である昭和五八年一一月一日ころその納付を請求し、その未納を理由に一方的に仕切って、原告に対し、膨大な損害を発生させたものであると主張し、被告Y4が、資金がない旨述べる原告に対し、証拠金を立て替えるので建玉するように勧誘し、原告は、これに応じて建玉していること、被告Y4は、同年一一月一日ころ、立て替えてある証拠金を請求したところ、原告は、支払うことができず、結局一部の建玉を残して、仕切っていることは、先に認定したとおりである。

イ ところで、商品取引所法及びこれを受けた商品取引所の受託契約準則は、商品取引員が、顧客から取引の委託を受ける場合、委託証拠金の徴収を義務づけているが、これは、商品取引員の委託者に対する委託契約上の債権の担保と顧客の過当な投機を抑制するためである。そして、委託証拠金の主たる性質は、商品取引員が委託者に対して有する委託契約上の債権担保者であるから、商品取引員が、委託者から委託証拠金を徴収しないで取引の委託を受けたとしても、委託契約の効力には影響を及ぼさず、そのことだけから、商品取引員の行為が違法であるということはできない。

また、委託証拠金を徴収しないで取引の委託を受けた商品取引員は、委託者に対する委託契約上の債権を担保するものがないのであるから、立て替えてある証拠金の未納付が確定した時点において、建玉を仕切ったとしても、そのことだけから、違法になるというものではない。したがって、被告Y4が、原告に対し、委託証拠金を立て替えて⑥、⑦の建玉を勧め、その後立て替えてある証拠金の納付を請求し、その未納がないことから、建玉を仕切ったことは、そのことだけから違法になるものではないということができる。

ウ しかしながら、前示のとおり、被告Y4は、もはや資金がないという原告に対し、委託証拠金を立て替えてまで積極的に両建を勧誘し、売建玉二八二枚、買建玉二八二枚という膨大な建玉が両建状態になっている原告に対し、立て替えてある証拠金の未納付が確定したいう理由で簡単に仕切ったものであり、しかも、被告Y4は、両建が、同時に仕切ったのでは、両建した時点で手仕舞いするよりも、手数料が必要となるだけ顧客に不利であり、全く無意味であることを承知していることは、弁論の全趣旨により推認することができる。そして、右事情は、前記三4の(3)で判示したとおり、被告Y4の両建の勧誘行為についての違法性をさらに強化するものであるということができる。

(2)  向かい玉について

ア 原告は、請求原因3の(13)において、被告会社がいわゆる向かい玉を行った旨主張し、前記乙第一一号証の一ないし二一及び証人Cの証言を総合すれば、被告会社及びその支配関係法人であるエース交易株式会社は、本件取引における原告の建玉に対応して、別表三のとおり向かい玉を行っていることが認められる。

イ 向かい玉は、商品取引員が、業界の規制の範囲内で向かい玉を建てただけでは、違法となるものではなく、商品取引員が、ことさら顧客を操縦し、顧客の損失を企図し、それが自己の利益になるように顧客を導くなど、利益相反となる事情が認められる場合に違法となるということができる。

ウ 本件の場合、前記認定の向かい玉に際し、被告会社が、ことさら原告を操縦し、原告の損失を企図し、それが自己の利益になるように原告を導いているなど、利益相反となるような事情は、証拠上認められないから、右向かい玉をもって直ちに違法ということとはできない。

四  被告らの責任

1  被告Y2、同Y3、同Y4の責任

(1)  被告Y2は、先に認定したように、先物取引に関して特別の知識、経験のない原告に対し、先物取引の危険性について説明をせず、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供して勧誘したものであり、また新規委託者保護管理協定の趣旨に違反する建玉枚数の勧誘を行い、原告は、被告Y2の勧誘に従って建玉したものであるから、被告Y2の行為は、商品先物取引上相当性を欠き、社会的に許容される限度を超えたものであって、違法であるということができる。

(2)  被告Y3は、先に認定したように利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供して勧誘したものであり、また新規委託者保護管理協定の趣旨に違反する建玉枚数の勧誘を行い、右協定及び新規委託者保護管理規則の求める管理保護をほとんど行わず、欠損の生じた建玉の処理や両建処理の意義、得失について、十分な説明を行わず、両建処理が得失を回復する一番有効な手段であると積極的に両建を勧誘したものであり、原告をして、被告Y3の言うとおりに建玉、手仕舞いさせたものである。したがって、被告Y3の行為は商品先物取引上相当性を欠き、社会的に許容される限度を超えたものであって違法であるということができる。

(3)  被告Y4は、先に認定したように、欠損の生じた建玉の処理や両建処理の意義、得失について、十分な説明を行わず、両建処理が損失を回復する一番有効な手段であると積極的に、かつ、被告会社において委託証拠金を立て替える旨提案して、両建を勧誘したものであり、また、新規委託者保護管理協定の趣旨に違反する建玉枚数の勧誘を行い、右協定及び新規委託者保護管理規則の求める管理保護をほとんど行わず、原告をして被告Y4の言うとおりに建玉、手仕舞いさせたものである。したがって、被告Y4の行為は、商品先物取引上相当性を欠き、社会的に許容される限度を超えたものであって、違法であるということができる。

(4)  そして、成立に争いのない甲第三四、三五号証によると、被告会社の従業員らは、昭和五八年前後にかけて、本件のほかにも顧客との間に数件の紛争を発生させており、また、そこにおいて主張されている同従業員らの行為の態様は、前記二に認定し、前記三4において違法性を指摘した行為の態様に極めて類似していることが認められ、少なくとも本件取引前後の被告会社の従業員らの行為には、相当性の範囲を逸脱するものがあった可能性があることが推認されるところである。

そして、前記二、三4によると、原告は本件取引の一部に限定してみれば利益を得ているものの、その経過には被告会社の従業員である右被告らの種々の違法行為があり、また同人らは、追証拠金の金策に窮している原告に手仕舞いをさせずに、無敷きで強引に商品先物取引の継続を勧め、その結果、原告に、その主張する損害を被らせたものということができる。

したがって、本件においては、被告会社の従業員である右被告らには、その業務の一環として、取引の当初から原告に対して損害を被らせることについて故意ないし過失があったというべきであり、同人らの一連の行為は、全体として原告に対する共同不法行為になると考えるのが相当である。

2  被告会社の責任

被告会社が、被告Y2、同Y3、及び同Y4の使用者であることは、当事者間に争いがなく、右被告らが、被告会社の業務の一環として右行為に及び、原告に対し、後記損害を与えたのであるから、被告会社は、使用者として原告の損害を賠償する責任がある。

3  被告Y1の責任

被告Y1が、本件取引当時、被告会社の代表取締役であったこと及び被告Y2が、被告会社本社第一営業部二課の課長代理であり、被告Y3が、被告会社本社第一営業部二課の課長であり、被告Y4が、被告会社本社第一営業部本店長であったことは、当時者間に争いがなく、成立に争いのない乙第三二号証、証人Cの証言、被告Y2、同Y3及び同Y4各本人尋問の結果によれば、その当時、被告会社は、名古屋本社のほか、松本、浜松に支店を有し、被告会社の従業員は、男約八五名、女約二五名の計約一一〇名であったこと、被告会社では月一回支店長以上が出席して幹部会議を開き、三か月に一回管理職員である課長代理以上が出席して管理者会議を開いて、営業方針等について会議を行っていること、以上の事実が認められ、右事実に反する証拠はない。

右事実によれば、被告Y1は、被告会社の代表取締役として、被告Y2、同Y3及び同Y4の三名を現実に監督する地位にあるといえるから、民法七一五条二項の代理監督者として、原告の損害を賠償する責任があるということができる。

五  原告の損害

1  原告は、本件先物取引により、金六七五万〇八〇〇円の損失を被り、被告会社に対する手数料が合計金六八四万〇三〇〇円となり、その取引上の損失の合計は、金一三五九万一一〇〇円となること、原告は、被告会社に対し、合計金一五五一万九一〇〇円の委託証拠金を交付し、被告会社は、原告に対し、委託証拠金と右損失を清算して、金一九二万八〇〇〇円を返還したことは、先に認定したとおりであるから、本件取引によって原告の受けた財産的損害は、金一三五九万一一〇〇円ということができる。

2  原告が、被告会社の従業員の勧誘に応じて先物取引に係わって以後、次々と金員支払の請求を受け、その間相当の精神的苦痛を味わったことは推察することができるが、右については、後述のように、原告自身の軽率さ、射幸心によるところも少なくなく、また、財産上の損害について財産的被害の回復をもってはなお回復しえない精神的損害があるとすれば、それは特別な場合であり、右特別な場合にあたることの主張立証がなければならない。本件においては、先に認定した事実のみからは未だその特別な事情の存在は認められないから、原告の慰謝料請求は認めることができない。

3  原告が、本件訴訟代理人弁護士に本訴の追行を委任し、報酬の支払を約したことは、弁論の全趣旨により明らかであり、本件事案の性質、審理経過等に鑑みると、原告の負担する弁護士費用のうち、金六〇万円を被告らに負担させるのが相当である。

六  過失相殺

前記認定の事実、前記乙第一号証の一、二、第二号証、第一二号証の一ないし七、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、被告会社との委託契約締結時に、被告Y2から、受託契約準則、商品取引委託のしおり、「お願い」と題する書面を受領していること、商品取引委託のしおりは、先物取引の仕組みについて平易な文章で解説してある書面であり、この書面を一読すれば、先物取引の投機性や追証制度などについて一応の知識を得ることが可能であったと認められるのに、原告は、契約締結時はもとよりその後についても読んでいないこと、原告は、取引のあった都度被告会社から送付されてくる確認書について、格別の異義をとどめずに、署名捺印して、被告会社に送り返していたこと、原告は、本件契約締結以後、新聞から綿糸の毎日の値動きについて一覧表を作成するなど、綿糸の相場について関心を持っていたこと、以上の事実が認められ、右認定事実に反する証拠はない。そして、原告が、被告Y2、同Y3及び同Y4の、相場の見通しや絶対に儲かるなどという言葉を安易に信頼し、勧めるままに取引を委託したこと、原告が、三〇年以上も有限会社を経営しており、その間、鋳造業、不動産業、テレビゲームセンター経営と営業を変えてきているものであり、現物取引に関する知識、経験、理解力を有していることは、先に認定したとおりである。

以上の事実によれば、原告は、現物取引の知識、経験、理解力をもって、商品取引委託のしおりを十分に検討し、先物取引が非常に危険性の大きい投機的取引であること、取引の結果、絶対に儲かるということはなく、損失を受ける確率の方が高いことなどを認識して、被告らの勧誘に対して、慎重に対応し、自主的判断によって取引を終了することができたにもかかわらず、原告は、射幸心と損を取り戻したいという気持ちから、被告Y2、同Y3及び同Y4の、相場の見通しや絶対に儲かるなどという言葉を安易に信頼し、勧めるままに取引を委託し、委託証拠金を追加していったのであり、原告のこのような態度が損害の発生及び拡大に重大な原因を与えたということができる。

したがって、原告の損害のうち、五割を原告自身の過失によるものとして相殺するのが相当と認められ、原告の受けた損害である金一三五九万一一〇〇円からその五割である金六七九万五五五〇円を控除した金六七九万五五五〇円が、被告らの賠償すべき財産的損害額であるということができる。

七  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告らに対し、右金六七九万五五五〇円及び弁護士費用金六〇万円の合計金七三九万五五五〇円並びに右金額に対する不法行為の日の後で訴状送達の日の翌日である昭和五九年八月二一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日高千之 裁判官 渡辺修明 裁判官 大善文男)

<以下省略>

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